2018年から数年経った今もなお、当番組をキッカケに来店される方が多く、おかげさまで宇治・茶業の発展に繋がっていることと思います。特に宇治茶の歴史、栽培や品質へのこだわり、そして宇治茶の奥深さをご紹介できましたことに感謝申し上げ、ご覧いただいた皆さまに厚くお礼申し上げます。
当園関係の放送内容は次の通りです。
① 伝統の栽培方法
宇治最古の茶園「奥ノ山茶園」案内
② 抹茶が出来るまで
自社「石臼挽き抹茶工場」案内
③ 奥深い茶の味
「扇状地で生まれる抹茶」「段丘で生まれる抹茶」の飲み比べ
宇治七茗園で唯一現存する「奥ノ山茶園」にご案内したのは3月上旬で、茶園は新茶前の冬の様相でした。江戸時代までは宇治でのみ、その栽培方法が許された「覆い下栽培」(茶摘みの前30日近く茶園の上に、寒冷紗や葦簾、稲わら等で覆いを行い、直射日光を遮り栽培する方法。その効果は葉を緑に染め、旨味成分を蓄える)がこの茶園では今も行われ、伝統の「本簾栽培」も葦簀を広げ、稲わらを振って遮光する様子をご覧いただきました。 又、茶の摘み取りは5月の一番茶のみで、しかもすべて手摘みによる摘み取りであることも説明いたしました。
樹齢400年を超える古木の説明の際には枝張が大きくないことに驚いておりましたが、毎年新芽を摘み取りその後は翌年に向けて剪定を行うことで、このように古木であろうと上に伸びず小さいことを説明いたしましたところ大変に納得されました。また、タモリさんは持ち前のジョークで「葦簾で宇治川のアユを天日干ししたら良いね」と話されていたのが忘れられません。
抹茶工場では碾茶が石臼(正確には茶だけ挽く石臼なので茶臼と言う方が正しい)で挽かれ、抹茶になる様子をご覧いただきました。見学室のガラス窓を開けると、工場から漂う抹茶の芳香にまず驚かれ、その後、茶臼の構造、仕組み、回る方向、回転数等を説明すると、その中で最も感心されたのは一時間に茶臼一台当たり40gしか挽けないと言う事でした。
次に、当園に伝わる手挽きの臼で挽き茶体験を行っていただきました。この茶臼は今では見ることのできない「宇治石」で作られ、やや大振りで黒光りし重厚な趣で、体験にふさわしい伝来の茶臼です。タモリさんは無事上臼を回すことが出来て、上臼と下臼の間から抹茶が出てきました。アシスタントの林田さんはもっと軽く臼を回すことが出来ると思われていたのか、全く上臼が回らず、臼を回す力に強さを要することに驚いておられました。一服の量を挽き上げる時間を思われ、昔の人にとって抹茶がいかに貴重な飲み物であったかということを認識していただきました。
お茶を検査する場所は試験場でも検査場でもなく宇治では「拝見場」(はいけんば)と言います。根を詰めて生産された茶を謹んで拝見する、これにも宇治の茶商の想いが詰まっている言葉です。拝見場は北向きに設けられ、北側に向けて正面の壁が傾斜しており、上部は天窓でそこから自然の光が差し込むように作られています。又、その周囲の壁や台もすべて黒で統一されています。茶を見る時、他の光に邪魔されず平等に色、艶を見るのに一番適しています。この拝見場にお二人を案内し、地質や土壌の話を含め、お茶の奥深さをお伝えすることができました。
奥ノ山茶園は宇治の段丘に位置し標高は6~70mの高台にあります。茶園の土壌は粘土質で固く、一方で、宇治の町に拡がる扇状地にある茶園は砂や小石が堆積し柔らかい土壌です。タモリさんにどちらの茶園にも足を運んでいただき、茶が植えられている土壌によって茶に変化があることを拝見場で実証していただきました。
一般的には山手の高地の茶、川沿いの砂地の茶と大きく区分されますが、山手の茶は香りが高く、川沿いは味が濃い茶が生まれます。さらに抹茶の挽き色は、山手はやや黄色味がありますが、川沿いの砂地では緑濃くなっています。タモリさんには奥ノ山茶園と扇状地で栽培された同じ品種で、碾茶と抹茶を検査しその違いを感じていただきました。この拝見場の検査は宇治の茶師が永年行ってきた方法に通じるものがあります。独特の「合組」と呼ばれるブレンドの技術により最高のものを作り上げ、一年間変わらぬ味の商品を提供するのが宇治茶師の腕の見せ所です。例えば先ほど述べた香り高い品、味濃い品、おとなしく素直な味、挽き色の良い品、それらを組み合わせ、一つの茶を作り出し、販売していることをお話し申し上げました。