7つの物語 - 第7話

お茶を見極めるには

味筋を守る茶師の仕事

私たちは、自分たちでお茶を育てると同時に、お茶農家が育てたお茶を仕入れて商品化し、販売しています。

毎年4月下旬には、宇治で新茶の初市が立ちます。私たちは一番茶だけを使うので、仕入れは遅くとも6月まで。茶摘みと重なる時期は、大忙しです。朝の5時半には茶園に行き、8時には市場へ。2ヶ月近く、ほぼ毎日のように通って一年分のお茶を仕入れます。

お茶農家が市場に出すお茶は「荒茶(あらちゃ)」といい、摘んだその日のうちに蒸しと乾燥を行ったもの。荒茶は形が不揃いで茎や枝も混ざっているため、仕入れたらまずふるいにかけ、選り分けます。次に再度火入れをして、長く保管できるように十分に乾燥させます。そして再加工したお茶をブレンドしたものが、お店で売られている「仕上茶(しあげちゃ)」です。

お茶の世界では、ブレンドのことを「合組(ごうぐみ)」といい、合組する人のことを「茶師」と呼びます。

合組で大事なのは、「味筋」を保つこと。同じ宇治のお茶でも栽培地や生産者によって変わるのはもちろん、その年の気候によっても出来が変わってきます。その微妙な違いを見分け、数種の茶葉を組み合わせて味を調え、同じ味筋のお茶に仕立てることが茶師の仕事。そして一年を通じて同じ味、品質を提供できるようにすることがお店への信頼につながります。

美味しいお茶には品がある

碾茶の色を表す「松の緑」「竹の緑」という言葉があります。松の緑は、平野の砂地で育ったお茶で濃い緑になり、うま味のある柔らかな味。竹の緑は、山辺の赤土で育ったお茶で、黄みがかった緑になり、しぶとく濃い味。茶師は、その微妙な緑の差に味を見通します。

来る日も来る日もお茶と向き合い、感覚を研ぎ澄ませていくと、やがてそのお茶がどのような風土と人によって育まれたかが読み取れるようになります。

美味しいお茶は、茶葉の姿かたちも美しく、品があるもの。つややかで明るく冴えた緑色は、早すぎず、遅すぎず、旬に摘まれた新芽であることを教えてくれます。また、砕けずにきれいに揃っている葉の形は、丁寧に加工された証し。さらに持ったときに感じる重みは、その身にうまみを十二分に蓄えていることを物語っています。

見た目の次に見るべき一番のポイントは、お湯で浸出したときのお茶の香り、水色(すいしょく)。碾茶の場合は、抹茶に挽きあげたときの色の参考に、「から色」といって茶殻の色も見ます。

煎茶は、お湯を淹れたときに新鮮な若葉の香りが立ち上がり、水色は濁りのない、明るく澄んだ山吹色が理想。焦げた香がするものは火が入りすぎ、水色の濁りや沈殿物があるものは蒸しすぎで、茶葉が砕けて混ざっていることを示しています。

覆い下で栽培された玉露や碾茶は「覆い香(おおいか)」という、磯の香りとも表現される濃厚な独特の香りを放つもの。また、いくら滲出しても水色が変わらない茶葉が上質とされます。

味わいは、煎茶ならばうまみや甘み、渋みがほどよく調和し、のど越し良く清涼感があること。玉露や碾茶ならば、濃厚なうまみを持ち、癖の少ない素直さが求められます。

茶葉の見た目「外観」、香り、味、水色、茶殻の色「から色」を見る

私たちが創業以来、変わらず大切にしているものは宇治茶の“ほんまもん”の美味しさ。

お茶は、時代とともにさまざまな形となって現れ、私たちの暮らしに寄り添ってきました。茶の湯という精神世界まで高められた抹茶。日々の生活に潤いをもたらす玉露、煎茶。手軽なペットボトル入り緑茶の登場から早くも40年が経ち、近年ではお菓子をはじめとする抹茶の食品利用が盛んです。

それらはみな、お茶という大きな幹によって豊かに育まれた枝葉。私たち堀井七茗園は、一杯のお茶がもたらす恵みをこの宇治の地で追求し、伝えゆくことで宇治茶の歴史に新たな物語を綴っていきます。

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