7つの物語 - 第1話

宇治茶の美味しさとは

「春」を味わう日本の緑茶

緑茶、紅茶、烏龍茶。世界中で飲まれているさまざまなお茶は、基本的に同じチャノキという植物がルーツです。長い歴史のなかで、土地の気候風土や嗜好に合わせ、多様なお茶がつくられてきました。

一番の違いは、発酵の仕方です。紅茶は発酵茶、烏龍茶は半発酵茶ですが、日本の緑茶は不発酵茶。新芽を摘んですぐに蒸し、発酵を止めます。つまり、緑茶とは若葉のみずみずしい生命力を味わうものなのです。

日本のお茶づくりの歩みは、春の息吹をいかに香り高く、味わい豊かに封じ込めるかに心を砕いてきた歴史といえるでしょう。そのなかで生まれた抹茶、煎茶、玉露という日本特有の緑茶。それらはすべて宇治で考案され、育まれてきました。

およそ800年前、鎌倉時代に遡る宇治のお茶栽培。以来、日本随一のお茶どころとして名を馳せ、今も多くの人が宇治に本場のお茶を楽しみたいと訪れます。しかし、宇治茶が本来どのようなものかを知っている人は、近年減ってきているように感じます。

ペットボトルで手軽にお茶が飲める時代。そうした世の中にあって、宇治茶の“ほんまもん”のおいしさを伝えたい。それが、私たち堀井七茗園の思いです。

宇治の一番茶だからこその色と味

堀井七茗園は明治時代の創業以来、宇治の地で代々お茶を商ってきました。室町時代から600年続く茶園で自らお茶も育て、お茶づくりに一から携わっています。

お店では、いつもお客様に一杯のお茶を淹れておもてなしします。

急須には、湯冷ましで少しぬるくしたお湯を少なめに。茶葉がゆっくりとほころびていくのを待って、湯呑に注ぎます。こうして淹れたお茶は、澄み切った淡い山吹色をしています。

昨今、よく見るのは深蒸しの濃い緑色のお茶。そのような緑茶を飲み慣れている人にとって、私たちが差し上げるお茶は、だいぶ色が薄いと映るでしょう。そして、「こんなに色が薄くて、ちゃんとお茶の味がするのだろうか」と思われるようです。しかし、多くの方はひと口飲んで「これほどコクがあるとは」と驚かれます。

すっと喉を通ったあとに香りとともに広がる、濃厚なうまみと甘み、そしてさわやかな渋み。すっきりと爽快で、それでいて続く余韻。見た目とは裏腹に、変化のある重層的な味わいが宇治茶の持ち味です。

その味は、宇治という産地が編み出したもの――宇治の気候風土、そして長い時間をかけて培われた伝統的な栽培法と製茶技術のたまものです。

お茶は、体を潤し、心を潤すもの。
丹念につくられたお茶は、その味わいを通して豊かな時間をもたらしてくれる。そう信じて、私たちは日々、お茶に向き合っています。

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