7つの物語 - 第6話

宇治抹茶ができるまで

お茶を生かす「蒸し」と「乾燥」

お茶は、茶葉を蒸したあと、乾燥させてつくります。そのうち茶葉を揉みながら乾燥させたものが玉露や煎茶、揉まずに乾燥させたものが抹茶の原料になる碾茶です。碾茶を挽いたものが抹茶になります。まずは当園ならではの碾茶のつくり方をご紹介しましょう。

お茶づくりの基本は「蒸し」。代々、そう教えられてきました。

お茶は摘んだ瞬間から、酸化酵素が働き、発酵が始まります。摘んだままにしておくと、葉の呼吸でむれて味や色、香りが損なわれます。不発酵茶の緑茶をつくるには、直ちに工場へ持っていき、加工しなければなりません。

発酵を止めるのが、茶葉を高温の蒸気で蒸す作業です。煎茶の場合、「深蒸し」といって蒸し時間を長くしたお茶が増えましたが、私たちがつくる緑茶は一般に「普通蒸し」と呼ばれるもの。深蒸しは、もとはといえば芯まで蒸さないと渋くて苦い茶葉を美味しくするための工夫でした。しかし必要以上に蒸すと、茶葉の組織は壊れ、雑味が出てしまいます。あくまで茶葉の状態に合わせ、適切に蒸してこそお茶の個性が生きます。

その蒸し時間は、たった15〜30秒。蒸し過ぎれば色や香りは失われ、足りなければ青臭さが残ります。蒸された新芽の香り、色つやを素早く確認する。浅すぎないか、深すぎないか、適蒸しか。その判断は、数値を超えた感覚の世界。数字通りにしていたら、いいものはできません。一年かけて育ててきたお茶を、生かすも殺すもこの数秒次第。何度やっても緊張する瞬間です。

「蒸し」の様子
蒸した茶葉はすぐに冷却。三代目長次郎が考案した空中に葉を散らす「散茶機」

蒸しの後工程である乾燥も、同じく技術が求められるもの。適度な火入れ温度が、茶葉の出来を左右します。ここで活躍するのが「堀井式碾茶乾燥機」です。

この乾燥機が画期的だったのは、熱源の焚口では「輻射熱」、熱源から遠い位置は「対流熱」の2種類の熱を利用する点。ただ乾かしただけの茶葉と異なり、お茶本来の香りを引き立てる、香ばしい「火香(ひか)」が生まれ、より風味豊かな碾茶ができあがります。

碾茶の荒茶

茶臼で挽くからこその味わい

できあがった碾茶は切断と篩(ふるい)を繰り返し、形を整えます。さらに風力で茎や葉脈の固い部分を取り除き、葉先の柔らかい部分だけを茶臼と呼ばれる石臼で挽いて抹茶に仕上げます。

当園では、お茶農家から厳選して仕入れた碾茶も、奥ノ山茶園で育てて加工した碾茶と同じように仕上げを行い、抹茶にします。私たちが宇治の昔ながらの抹茶づくりを大切にするうえで、守り続けていることが三つあります。

まず、覆い下栽培で育てられた茶葉だけを使うこと。二つめは、その年の5、6月に摘み取られた一番茶以外は使わないこと。抹茶のあざやかな緑は、覆い下栽培だからこそ生まれるもの。また、うまみ豊かな抹茶は、一番茶でなければつくれないからです。

そして三つめは、すべて茶臼で挽くこと。茶臼で挽けるのは、1台当たり1時間にたった40g前後とわずかです。それだけに昨今では、茶臼の代わりにボールミルという粉砕機が使われることがあります。しかし、茶臼で碾茶を挽くのと、ボールミルで叩くのとでは、同じ微粉にするのでも原理が異なり、仕上がりも変わってきます。

茶臼には上臼と下臼とがあり、その仕組は回転する上臼の石の重みでまんべんなく挽くというもの。上臼の中心から投入された碾茶は、上臼と下臼とが重なり合う部分から緑豊かな抹茶となってこぼれ落ちます。その粒子の大きさは10ミクロンほど。その細かさが滑らかな口当たりをつくります。

まろやかな泡立ち、立ち上がる濃厚な香り、なめらかな舌触り、そして深く濃いうまみ。

抹茶ならではの美味しさをつくるには、どうすればいいのか。自然が育んだ繊細な個性を引き出すため、私たちは手を添えるだけ。決して手を抜かず、かといって余計なことはしない。その塩梅は、いつも目の前の茶葉が教えてくれます。

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